決断の時~前編~

過去

彼の母親からも忠告を受け、別れをも勧められ、

彼が私の知っている”彼”に戻ることはほぼ絶望的だった。

だが・・・なぜか私はどうしても彼を突き放すことができなかった。

”まだいつか変わってくれるチャンスがあるかもしれない・・・”

”お義母さんがダメだったとしても、私ならなんとかできるかもしれない・・・”

”彼を変えられのは私だけかもしれない・・・”

そんな、正義感にも似た感情が生まれてきてしまい、彼から離れられなかった。

こんな一件があり、きっと彼も自分でしたことの罪悪感とやらも出て、少しは変わる努力もしてくれるかも・・とも思っていた。

が、彼が変わる気配は全くなく・・・

私自身、帰宅してからも怖くてその話を持ち出すことができずにいた。

またこの話をしたら、彼はイライラするかもしれない。

こんな話をしたら、怒りの反動でまたドラッグに手を出すかもしれない。

とにかく穏便に過ごしたくて、私は黙っていた。

黙って、彼がいつか自分自身で変わる意志を持つまで待とうと待ち続けた。

1年、2年、3年・・・経過しても、彼の感情の起伏の激しさは変わることはなく、

彼がその当時ドラッグを使用していたのかどうか確かな証拠もないまま、歳月は過ぎていった。

ある日の夜、私たちは些細な事で口喧嘩をした。

本当に些細な事。もう何が原因だったか正直覚えていないくらい。

だがその喧嘩で私の今まで張りつめていた糸がぷつんと切れた。

今まで黙って耐え抜いてきたけど・・・どうしてもその時は耐えるに耐えきれず

つい彼に対して言い返してしまった。

それに対して彼も今までみたことないような形相で、怒鳴りながら私に向かってきた。

彼は身長も高く体が大きい。そんな男の人が怒鳴りながら向かってきたあの時のことを考えると今でも身が震える。

力では絶対に勝てない相手。そんな相手に力を使われたら・・・

私は恐怖の中、叫びながらその場にうずくまってしまった。

そんな私を目の前にして、彼が発した言葉は、

”お前は今の状況で何ができると思っているんだ。俺はやろうと思えば今お前を殴りつぶすことなんて容易いことだ。自分の置かれている状況わかってるのか”

そんな今まで聞いたことのない恐ろしいことを半笑いで私に発してきた。

”このままでは本当にどうなるかわからない・・・・”

とにかく今私はこの場からなんとかして逃げるしかない

そう思ってとっさに携帯と車の鍵だけを持って裸足で車へ向かった。

彼は笑いながら私を追いかけてきて、

”どこに行くつもりだ?お前は家族すらここにはいないのによ!ははは!”

もう”彼”ではなくなっていた。

私はとにかくどこかへ・・・どこかへ逃げないと・・・

車を発進させ、向かった先は、

地元の警察署。

そこしか安心して身を寄せられる場所がなかった。

私はどうにか警察署まで運転し、到着した瞬間震えと涙が止まらなくなり、

車の中でうずくまっていた。

そうしたら、警察官が数名近寄ってきて”どうしたんだい?”と声をかけてきてくれた。

私が全ての事情を話すと、”怪我はないかい?””彼は今も家にいるのか?””彼の精神状態はどんな感じだ?”

と様々はことを聞かれた。

ここアメリカでは夫婦間での喧嘩もすごくシビアに取り合ってくれる。

というのも、暴力(身体的にも精神的にも)が関わってくることが多く、また暴力が発生した瞬間、逮捕されるからだ。

警察官はすぐに今から一緒に家へ行き彼を捕まえられるぞ、と言ってくれたものの

私はどうしてもそれだけはさせられなかった・・・・

その背景にあったのは、彼の一人娘。

まだ彼女はそのころ7歳。もう物事の分別も付く。今起こっていることも記憶に残る。

夫婦喧嘩を目の当たりにさせていること自体、彼女にはよくないとわかっていたものの

それ以上に、自分の父親が目の前で逮捕されるなんて見てしまったら

母親も失い、その上父親までも失った心の傷の深さははかりえない。

そうその時は思っていた。

その事情も説明した上で、警察官には一人で家に戻らさせてもらった。

ただ、もしまた次何か同じようなことが起こったときは必ず911をするよう約束させられた。

警察官に約束をし、約2時間ほど経って心も落ち着いてから私は帰路へ着いた。

家へ戻った私だが、そこでさらなる悲劇が起こる。

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